2018年3月26日月曜日

応用編 -「プライシングマネジメント」の自社ケーススタディ

こんにちは。Class of 2018のK.Lです。残り2ヶ月でMBAを修了することになりました。充実した最後のMBA生活を送ろうと奮闘する一方、今まで学んだことをビジネス世界でどう活かしていくか思いを巡らせているところです。今回は新しい試みとして、Kelleyの名物教授であるWalters (https://kelley.iu.edu/faculty-research/faculty-directory/profile.cshtml?id=WALTERSR) が教えたプライシングの授業で学んだことを応用しながら、自社で経験したPricingプロジェクトについて簡単に振り返りたいと思います。 

まず、プライシングマネジメントという授業について触れておきたいと思います。プライシングは日本語に直訳すると、価格設定ということになりますが、アメリカではストラテジーの一環としてかなり重視されています。会社によってはプライシング担当VPがついているところもあります。この授業もKelley在校生の殆どが受講するという人気ぶりです。内容としては、プライシングの戦略位置付け、価格弾性の測定と応用、価格を通じた商品やサービス価値のコミュニケーション、新規商品の価格設定等があります。教授は教鞭を執る一方、米国大手企業のコンサルティングも多数手がけてきているため、内容の説得力も高いと思います。授業形式はレクチャーとケースを組み合わせですが、クラスの全員の参加を求めるスタイルです。また、教授ご自分で開発した使いやすいツールも多用されており、かなり役に立つ授業ではないかと思います。

 さて、これから本題に入ります。2014年から2016年にかけて弊社(住宅設備メーカー)はある一流コンサルティング会社を雇い、利益率の改善を狙ったプライシングプロジェクトをスタートさせました。柱となった施策はカタログ価格改定と客別価格交渉になります。カタログ価格の改定により、コントラクターや特約店ではなく、住宅を購入するエンドユーザーにも値上げをお願いしました。一方、客別価格交渉を通じて、収益性の低い顧客(コントラクター、工務店)に対して、商品別の値上げを求めました。 しかし、残念ながら、収益改善は思った通りに実現できず、いつの間にかプロジェクトは中止することになってしまいました。プライシングマネジメントの授業を思い出しながら、下記いくつか反省点としてまとめてみました。一見、明らかなことばかりですが、短期の業績のプレッシャーやリーダーシップの取り方によってマネジメントに見落とされがちなものでもあると思いますし、将来的に自分がリーダーの立場でこうしたプロジェクトに取り組むこともあると思われますので、自戒の意味を込めて振り返りました。


 1. 戦略策定


プライシングマネジメントの授業のなかでも、マクロ経済環境や競合相手の動向を十分研究や予測してから、プライシングプロジェクトの内容とタイミングを検討すべきだと教わりましたが、残念ながら、こうした要素が成果を急ごうとした過程のなかで弊社では見落とされたのではと思いました。 


マクロ環境

2014年ごろはデフレ脱却を目指したアベノミクスの宣伝が盛んになっていたなか、日本中の小売企業が相次いで値上げに踏み切り、大きな話題になっていました。確かに、マクロ環境としては価格改定を行いやすい時期ではありました。しかし、一つ見落とされていたのは弊社が置かれていた住宅産業の特殊性でありました。消費税増税の直後ということもあり、住宅産業では駆け込み需要が一巡し、需要が低迷していました。こうしたなか、人生で一番高い買い物と言われる住宅の購入を刺激するために、各住宅メーカーが少しでも安く価格を抑えようと、しのぎを削っていたところですが、弊社の値上げ決断は顧客の努力を台無しにすることになってしまいました。


自社状況

前年度の大雪による工場への被害で主力商品が欠品していたため、半年間以上顧客に迷惑をかけていました。顧客の協力があったからこそ、早い段階で回復できたということも言えます。落ち着いたところで顧客に値上げを要求するのは営業担当の私としても理解しがたいことでした。 競争の動き 弊社社長が住宅産業全体の活気を取り戻し、変革をもたらそうと価格改定の意味を強調しましたが、追随する競合メーカーは1社もなく、顧客に理解されにくい値上げとなりました。 




2. コミュニケーション


プライシングマネジメントの授業では、価格改定などを行った際、「社内外のコミュニケーション」や「ロードマップの明示の重要性」をコンセプトとケーススタディを通じて学びました。特に印象に残ったのは、値上げを顧客にお願いする際、分かりやすい形で価値を再訴求する必要があるという教授のコメントです。価値と価格をビジュアルに比較できるツールまで用意されました。 


社内

弊社トップマネジメントの社内発信は一回のみで、社員をモチベートする為にも持続的な発信やコミュニケーションも必要だったのではと思いました。プライシングプロジェクトの意味やロードマップ等がはっきりしないまま見切り発車した結果、各担当部門はゴールが見えないまま、動き回っていました。また、より早い段階で成果を出すためにも、最前線にいる顧客と接する営業担当に対してもベストプラクティスの共有や横展開活動なども増やすべきではないかと思いました。


社外

価格改定(値上げ)は急遽決まり、マネジメントがスピード感を持ってニュースリリースを行いましたが、大手顧客への事前通知は不十分で、顧客社内の混乱や価格改定への抵抗を招いたこともありました。 




3. 実行


商品選定

プライシングの授業の中で、Heavy Hitterという概念があります。いわゆる売れ筋商品トップ10の商品は全売上の70〜80%を占めるという経験値です。弊社も似たような状況ですが、価格改定はほぼ全商品に渡り、社内外に多大の負担をかけたことになりました。トップ10の商品の中で、利益率改善の余地ある商品を特定し、それらだけに対して価格改定のお願いをすれば、より早く結果を出せたのではないかと思います。売上データを活かして、商品ごとの価格弾性を測定すれば、価格を少し下げると、より沢山売れて、利益額が増える商品もあったのではないかと思いました。値上げだけだはなく、値下げもセットになるとよりプライシングの納得性が高いと教授の教えは未だに鮮明に覚えています。


実行組織

本部にプライシング部を設置し、各支社にもプライシングマネジャーが設置されましたが、プライシングマネジャーの役割が本人と支社にきちんと伝わっていませんでした。結果としては、プライシングマネジャーは値引き申請書の完成度を気にしすぎて、戦略的に考えることもできず、支社営業に嫌われる存在になったこともありました。この授業のケーススタディーでも似たような事例が取り上げられていたので、実行組織についてもっと工夫すべき点があるのではと思いました。 



以上、プライシングマネジメントで学んだことを活かしながら、今まで営業担当として取り組んでいたプライシングプロジェクトを振り返ってみました。勿論、取り上げた内容はプライシング授業の一部に過ぎず、今後のキャリアにおいて何度も振り返り、活用できる内容もまた沢山あると思います。また、前回のプロジェクトでは私は意思決定者の立場ではなく、一担当として取り組んでいましたが、今後のキャリアがステップアップしていく中で、今回の学びを活かす機会が増えていくのではと思います。

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